hey MAGAZAINEやぁ

個性的な原宿ファッションを撮影した伝説的な雑誌『FRUiTS』の復刊資金を募っていると聞いて見てみると、ピンクの可愛らしい首から下げられるアクリルのタグが売られていた。路上に撮りたいファッションがでてくれば雑誌を創刊して、消えてしまったら廃刊して時代を作ってきた。彼は何を撮り、売っているのだろうか?

いまやどのファッション雑誌にもウェブメディアにもおなじみのストリートスナップはこの人から始まったといっても過言ではない。青木正一(あおき・しょういち)さんの彫刻のようなリアルなストリートスナップはどうやって始まったのだろう。そこから話を聞いていく。

流通のことを何も知らずに作った『STREET』を本屋に持ち込んだ

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1号目の『STREET』より

──青木さんが手がけている雑誌のなかでも、はじめに出版した『STREET』はどういう風に始まったんですか?

きっかけは1980年ごろに初めて訪れたパリ。そこではおしゃれな若い女性たちが頭にハチマキのようにリボンや紐を巻いていて驚いたんです。日本にDCブームが訪れる数年前のことです。こういうファッションを紹介したら面白いかもと思い、住んでいたエリアでファッションに強かった心斎橋の福家書店の店長に「こんな雑誌を作りたい」って相談したら「作ったら持ってきなよ」と言われて。1年後くらいに第一号目の『STREET』を持って行きました。すると「明日400冊持ってきて」って。店先に積んでもらった雑誌を見ていたらどんどん売れて行ったのを覚えています。初めてパリを訪れた5年後くらいのことでした。それが始まり。

*1980年代におきた日本の衣服メーカーブランドのブームのこと。「DC」とはデザイナーズ(Designer’s) & キャラクターズ(Character’s)の略とされる。

言葉もわからない国の路上で写真を撮り続けた

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2号目の『STREET』より

──『STREET』のストリートスナップの舞台はパリやロンドンですよね。どうやって撮影していたんですか?

はじめはパリにいる手伝ってくれる人を募集してお願いしてたんだけど、1年くらいして自分で撮影しに行くようになって。たくさんのフィルムを持って年に3、4回行くんです。

当時はそんな風に路上で写真撮ってる人が僕以外にいなかったから「何してるんだ」ていう感じだったと思うんだけど、ロンドンではそのうち何をしてるのかがバレていたらしくて歓迎してくれたんです。

撮るのは勇気がいります。だから「これは撮らないと」っていうアドレナリンが分泌された時しか撮らない。ルールはそれくらいで、あとは基本的に全身を撮ることくらいかな。

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青木氏が20年ぶりにパリコレで撮影した311号の『STREET』の表紙

ブランド至上主義に対抗して『FRUiTS』がうまれた

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個性的な原宿ファッションを取り上げた『FRUiTS』37号の表紙

──『STREET』に続いて個性的な原宿ファッションを取り上げた『FRUiTS』が出ていますよね。これはどういうきっかけなのでしょう?

DCブームの後に、それまで10年以上支配的だった真っ黒で高価なブランド服への反発のように、突如としてカラフルで安価でブランドに支配されない自分のおしゃれをする子たちが現れたんです。最初はCHRISTOPHER NEMETHやVivienne Westwoodを取り入れるところから始まっていますが。

これは日本のファッション革命だ、世界的にもすごいことだと思いました。ひとつ雑誌を作ろうと思っただけのインパクトがあったから『FRUiTS』を創刊することにしたんです。

それから『FRUiTS』1号に登場しているような美容やファッションの専門学校生の元気のいい子たちが火をつけて、原色の色使いで古着や着物の上物などを取り入れたファッションが生まれて。見たことのないファッションに進化していきました。

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デコラファッションをまとめた書籍『デコラブック』より

ストリートスナップはドキュメンタリー

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『FRUiTS』より

──その進化の結果である「デコラ」「個性派」と呼ばれるファッションは『FRUiTS』が牽引していましたよね。

でも、方向づけをしたりとか、こういうもの流行らせたい、みたいなのはしないようにしていました。

──どうしてですか?

なるべく観察していたいなと思ったから。僕にとってこの『FRUiTS』は、100年後の人たちに見せるためのファッションの収集であり、ドキュメンタリーなんです。撮影する時も、そのままで、とお願いしていましたし。

──言われてみれば、青木さんの作る雑誌では買い物袋やその時飲んでいるジュースなども一緒に写っていますよね。

僕にとっては、それを写さないのは意味が分からない。その時点でそのまんま撮りたい。本当は声かけずに撮りたかったんだけどそうもいかないので。買い物袋とか持ってるそのままの状態のほうが美しいなと思います。

インターネットが始まってからのストリートスナップって、ブランドタイアップのヤラセがたくさん混在していて、そうしないとお金にならないんだろうけど、それではストリートスナップの意味がお金以外何もないじゃないですか。やってる意味がわかんない(笑)。

『FRUiTS』を復刊するために、タグを売っている

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『FRUiTS』より

──『FRUiTS』が廃刊になった時は驚きました。

2年前ですね。ファストファッションが少しずつファッションを蝕んでいった結果、原宿のファッションはかなりどうでもいい感じになっちゃったなと思いました。買う人のファッションを蝕むだけじゃなくて、クリエイティブで頑張ろうとしていたメーカーやビジネスも蝕んでいったからでしょうね。

──そしてまた復刊するということは、そういうファッションが戻ってきたということですか?

ちょうど『FRUiTS』の発行をやめたちょっと後ぐらいにVETEMENTSとかOFF-WHITEとかが出てきて、2年かけて状況をひっくり返しました。はじめは男の子が主体だったものが、だんだん女の子達にも馴染んでいきました。それで原宿的なファッションが復活しそうな雰囲気が2019年の暮れぐらいからあったんで、復刊しようと思って。せっかく復刊させるならその資金をタグを売って集めようと。

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streetshopより

──このタグ、可愛いですよね。

ファッションの一部にしたかったから、首からぶら下げるのが可愛いなと思ってこういう形にしたんです。イーロンマスクがロサンゼルスの地下にトンネルをたくさん掘って新しい交通システムを作るプロジェクトをやっていて、それの資金集めにキャップを売って資金を集めていたのを真似してみました。赤い羽根募金みたいな象徴的なものになったらいいなと思って。

変化の時代、雑誌も変わらないと

──雑誌を買うことの価値観も変わっていると思いますか?

そう思います。さっき話にでてきたOFF-WHITEのデザイナーのヴァージル・アブローが10年後のファッションがどうなるかというインタビューでも、

“「ストリートウエアはこの先10年のうちに廃れる」と予測し、今後は「消費者がファッションの知識や個人のスタイルをビンテージで表現するとても素晴らしい状態になっていくだろう」”
引用:英雑誌「DAZED」のインタビューより。本引用はWWDの記事から

と語ってます。ラグジュアリーストリートを牽引した本人がです。

どうでもいい服を大量に売るのがここ数年のファッションビジネスだとしたら、変化の時なのかもしれないですね。楽しい人生楽しむための、ヴィンテージや一点物のほうが嬉しいよねっていう時代がくるのかなって。だから雑誌もこれまでの売り方でいいわけがない。

これからの『FRUiTS』も紙にしないと読者は納得してくれないだろうと思うし、そうすると思いますけど、これまでみたいな書店流通はもうやらないでしょうね。紙の雑誌だけで成立する時代ではなくなったので、ウェブやSNSとの連携や、書店流通では制約でできなかったような付録をつけるようなことをやってみたいなと思います。

▼展示情報
原宿にある書店・ギャラリー「BOOKMARC」にて開催中。
「Heaven by Marc Jacobs presents 青木正一写真展”FRUiTS My Best 100 #1-#10」
会期: 2020年 9/1(火) – 10/8(木)
公式サイト:http://www.marcjacobs.jp/bookmarc
住所:東京都渋谷区神宮前4-26-14
営業時間:11:00~20:00 定休日:不定休

1955年東京生まれ。プログラマーを経て独立後1985年に『STREET』を発行。その後『FRUiTS』、『TUNE』、『.RUBY』などファッションスナップを軸にさまざまな雑誌を発行、編集長をつとめる。レンズ株式会社代表。
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